小説

物語は、説明ではなく、
しずかに沈んでいくための場所。

第一章 青い通路

その通路には、足音がなかった。
あるのは、誰かが少し前までここにいたような、うすい温度だけだった。

わたしは立ち止まり、壁に触れた。
冷たいはずのそこは、なぜか少しだけやわらかかった。

名前を呼ばれた気がしたけれど、振り返っても誰もいない。
ただ、遠くで紙をめくるような音がした。

第二章 ことばの気配

ことばは、いつも遅れてやってくる。
傷のあとに。沈黙のあとに。夜のあとに。

だからたぶん、ことばは救いではない。
それでも、救いの手前に置かれた椅子にはなれるのだと思う。